【WBC2026】「保険適用外」の衝撃的な実態と5つの審査基準|なぜスター選手が消えるのか?

「まさか、あの選手まで見られないのか?」

2026年3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)開幕を目前に控え、怪我をして動けないから辞退するなら、まだ諦めもつくだろう。

しかし今、WBCを襲っているのは、「選手本人は健康で、やる気に満ち溢れているのに、書類上の理由だけで出場を禁止される」という異常事態です。

その元凶となっているのが、通称「WBC保険の壁」である。

特に今回の2026年大会では、この問題が過去に類を見ないほど深刻化しています。

強豪プエルトリコ代表では、キャプテンを含む主力選手10名以上が出場不許可となり、連盟会長がボイコットを示唆するほどの激震が走りました。

なぜ、これほどまでに審査は厳しいのか? 今回から新設されたと言われる「37歳ルール」とは何か? そして、なぜ球団は数億円を払ってでも選手を守ろうとしないのか?

本記事では、ファンを置き去りにする「保険適用外(インシュアランス・ストップ)」の不都合な真実と、その裏にある冷徹なビジネスの論理を、判明している「5つの審査基準」とともに徹底解剖します。

【現状】2026年大会で起きている「辞退ドミノ」の惨状

2026年2月、WBCのキャンプイン直前というタイミングで飛び込んできたニュースは、大会の根幹を揺るがすものでした。

各国のスター選手たちが、次々と「保険審査落ち」を理由に出場を断念せざるを得なくなっている。

プエルトリコ代表「崩壊」の危機とボイコット騒動

最も事態が深刻なのが、過去2回の準優勝を誇る強豪・プエルトリコだ。

2月1日、プエルトリコ野球連盟のホセ・キレス会長は緊急会見を開き、怒りを露わにした。

「我々の主力選手のうち、8人から10人が保険の許可を得られなかった」。

会長はさらに、「他の国と同じ条件で戦えないのであれば、大会に参加する意味がない」と述べ、最悪の場合はチームごと大会をボイコット(不参加)する可能性まで示唆した。

これは単なる脅しではなく、チーム編成が不可能なレベルまで戦力が削がれていることを意味する。

リンドーア、コレア…無念の涙をのんだスターたち

具体的に誰が出場できないのか。名前が挙がっているのは、MLBを代表する選手たちです。

  • フランシスコ・リンドーア(ニューヨーク・メッツ)
    プエルトリコ代表のキャプテンであり、チームの精神的支柱です。彼はオフシーズンに肘のクリーニング手術を受けたが、リハビリは順調で、春季キャンプには万全の状態で臨めるとアピールしていた。しかし、保険会社は「手術歴」を理由にWBC出場分の保険適用を拒否しました。本人の熱意も虚しく、出場断念が発表された。
  • カルロス・コレア(ミネソタ・ツインズ)
    遊撃手として攻守の要となるはずだったが、過去の足首の怪我や足底筋膜炎の履歴がネックとなり、審査を通過できなかった。
  • ホセ・ベリオス(トロント・ブルージェイズ)
    エース格の投手だが、彼もまた保険の壁に阻まれた一人だ。

共通するのは、「現在はプレー可能な状態にある」ということだ。

それにもかかわらず、過去のデータだけで「不健康」の烙印を押され、国を代表する権利を奪われている。

ベネズエラ代表などを襲う「主力離脱」の連鎖

被害はプエルトリコだけではない。

優勝候補の一角、ベネズエラ代表でも主力の離脱が相次いでいる。

特に衝撃を与えたのは、ヒューストン・アストロズのホセ・アルトゥーベの欠場です。

前回大会で死球による骨折を経験している、今回は保険会社から「リスクが高すぎる」と判断されたと見られている。

また、ロサンゼルス・ドジャースのベテラン内野手、ミゲル・ロハスも同様の理由で涙をのんだ。

【仕組み】なぜ保険が下りない? 恐怖の「5つの基準」と「37歳ルール」

なぜ、これほどまでに多くの選手が「保険適用外」となるのか。

その裏には、MLBと選手会、そして保険会社の間で取り決められた、極めて厳格かつ機械的な審査基準が存在する。

MLBの保険を支配する「NFP」とは

WBCのような国際大会に出場する際、選手は球団の管理下を離れるため、別途大会用の傷害保険に加入する必要がある。

これを一手に引き受けているのが「NFP(National Financial Partners)」という保険会社だ。

保険会社にとって、選手の身体は「商品」であり、怪我は「損失」になります。

数十億円、数百億円という契約を持つ選手が大会で大怪我をし、シーズンを棒に振れば、保険会社は莫大な補償金を球団に支払わなければならない。

そのため、保険会社の審査は医学的な見地以上に、「金融リスク管理」の側面が強い

1つでも該当すればアウト? 「慢性的な怪我」5つの認定基準

報道や関係者の証言によると、保険会社は以下の5つの条件のうち、1つでも該当すれば「慢性的な怪我(Chronic Injury)」のリスクありとみなし、保険の適用を拒否(または特定の患部を除外)するとされている。

  1. 長期の故障者リスト入り 前年のシーズン中、故障者リスト(IL)に入っていた期間が合計60日以上あること。
  2. シーズン終盤の離脱 前年の8月31日時点で故障者リストに入っていたこと。
  3. シーズン完走の失敗 前年のレギュラーシーズン最後の3試合のうち、怪我に関連して2試合以上欠場していること。
  4. オフの手術 シーズン終了後から大会までの間に、何らかの手術を受けていること(リンドーアのケースはこれに該当)。
  5. 複数回の手術歴 キャリアを通じて、特定の箇所に複数回の手術歴があること。

この基準の恐ろしい点は、「医師が完治したと言っているかどうか」がほとんど考慮されない点にある。

「昨年60日休んだ」「オフに手術した」という事実のみで、機械的にシステムからはじき出されてしまうのだ。

新設された「37歳ルール」という高いハードル

さらに今回の2026年大会から、新たな規定が厳格化されたと言われている。それが「37歳ルール」です。

ベネズエラ代表のミゲル・ロハス選手(ドジャース)がSNSで明かしたところによると、「37歳以上の選手は、新しい規定により保険の対象外となる」という通達を受けたという。

実際にはロハス選手は大会時点で36歳だが、大会中に37歳を迎える、あるいはシーズン中に37歳になる学年であるといった理由で適用された可能性がある。

ベテラン選手にとって、WBCはキャリアの集大成となる場でもある。

しかし、どれだけ体が丈夫でも「年齢」という数字だけで門前払いされるこの新ルールは、ダルビッシュ有選手のようなベテラン勢にとっても他人事ではない脅威となっている。

【背景】年俸高騰が生んだ歪み「数億ドルの身体」

なぜここまで保険会社は臆病なのか。

そして、なぜ球団は「保険が下りなくても出場していいよ」と言わないのか。

その理由は、MLBの市場規模拡大と、契約形態の特殊性にある。

「完全保証契約」が球団の手を縛る

MLBの契約の多くは、「完全保証(ギャランティード)」である。

これは、選手が怪我をして試合に出られなくなっても、球団は契約した年俸を全額支払わなければならないというものだ。

例えば、年俸40億円の選手がWBCで大怪我をし、その年のシーズンを全休したとする。

保険が適用されていれば、その40億円の多くは保険金でカバーされる。

しかし、保険適用外(不許可)の状態で出場し、怪我をした場合、球団は保険金ゼロで40億円をドブに捨てることになる

リスクを取れない保険会社のビジネス事情

かつてのMLBでは、年俸総額は今ほど高くなかった。

しかし近年、大谷翔平選手の7億ドル(約1000億円)契約を筆頭に、フランシスコ・リンドーア(10年3億4100万ドル)マニー・マチャド(11年3億5000万ドル)など、数億ドル規模の契約が当たり前になった。

保険会社からすれば、1人の選手に対する補償額が跳ね上がりすぎている。

「もしリンドーアが怪我をしたら」というリスクは、ひとつの損害保険案件としてあまりに巨大すぎる。

そのため、少しでもリスク要素(既往症や手術歴)がある選手は、ビジネスとして「引き受け拒否」せざるを得ないのが実情です。

「特例出場」がほぼ不可能になった理由

実はルール上、保険が下りなくても球団が「我々がリスクを負うので出場を許可する」と宣言すれば、選手は出場できる

かつてミゲル・カブレラ(当時タイガース)が保険適用外となった際、タイガースのオーナーが男気を見せて出場を許可した例がある。

しかし、2026年の現在、選手の資産価値は当時とは比べ物にならない。

球団経営者に対し、「万が一の時は数十億円の損失を被ってくれ」と言うのは、株式会社の経営判断として不可能に近いのだ。

【比較】過去の事例から見る問題の根深さ

この問題は今回突然始まったわけではありません。

しかし、回を重ねるごとに「被害者」のレベル(スター性)が上がっていることが、ファンの失望を大きくしている。

2023年大会:カーショーの悲劇との共通点

記憶に新しいのは、前回2023年大会でのクレイトン・カーショー(ドジャース)の事例です。

アメリカ代表のエースとして出場を熱望し、「準備はできている」と訴えたが、過去の腰のトラブルを理由に保険審査が下りず、無念の辞退となった。

カーショーは当時、「今の自分は健康だ。これは本当にフラストレーションが溜まる」と語っていた。

この時も「仕組みがおかしい」と議論になったが、3年経った2026年、状況は改善するどころか、プエルトリコ代表の例に見るように悪化の一途をたどっている。

「ドクターストップ」と「保険ストップ」の決定的な違い

怪我による「ドクターストップ」であれば、ファンも選手も(悔しいが)納得はできる。それは物理的な限界だからです。

しかし、「インシュアランス・ストップ(保険による制止)」は違う。「体は動くのに、金銭的なリスク回避のためにプレーさせない」という、大人の事情によるストップだ。

ファンが見たいのは、世界最高峰の選手たちが国の誇りをかけて戦う姿です。

しかし、今のシステムでは「過去に怪我をしたことがない、超健康優良児」しかWBCの舞台には立てないことになってしまう。

【日本代表への影響】大谷翔平や山本由伸は? 侍ジャパンを巡る「保険」の明暗

他国の惨状を見て、日本のファンが最も気をもんでいるのはこの点だろう。 「で、侍ジャパンの大谷翔平や山本由伸は大丈夫なのか?」

結論から言えば、日本代表は「MLB組」と「NPB(国内)組」で事情が全く異なります。

特にメジャーリーガーに関しては、決して対岸の火事ではない厳しい現実がある。

最大の懸念は「大谷翔平」の右肘

侍ジャパンの至宝、大谷翔平(ロサンゼルス・ドジャース)の場合、今回の厳しい審査基準に照らし合わせると、極めてデリケートな立場にあると言わざるを得ない。

彼が直面するリスクは、以下の基準です。

  • 基準5:複数回の手術歴 大谷は過去に2度、右肘の手術(トミー・ジョン手術およびハイブリッド手術)を受けている。

保険会社NFPのガイドラインでは、同一箇所への複数回の手術歴は「再発リスク極大」とみなされる。

たとえ2025年シーズンを投手として完走していたとしても、「右肘」に関しては保険の対象外(免責)とされる可能性が非常に高い

もし右肘が保険適用外となった場合、出場するにはドジャースが「もし右肘が壊れても、数百億円の契約金は球団が全額被る」という特例を認める必要がある。

球界の顔である彼に対し、球団がどのような判断を下すのか、水面下でのギリギリの交渉が続いていると予想される。

山本由伸、鈴木誠也らその他のMLB組は?

その他のメジャーリーガーについては、「2025年シーズンの稼働状況」が運命を分ける。

  • 山本由伸(ドジャース)

    もし昨シーズン中に長期の離脱(60日以上)がなく、シーズン終盤を健康に過ごしていれば、問題なく審査を通過できるはず。
  • その他の選手

    鈴木誠也や吉田正尚なども同様だ。ただし、少しでも慢性的な違和感を訴えていたり、シーズン終了後に小さな処置(注射など)を受けていたりすると、リンドーアのように「念のため不許可」となるリスクはゼロではない。

日本の強みとなる「NPB組」の保険事情

一方で、侍ジャパンには他国にはない大きな強みがある。

それが「国内(NPB)組は、この厳しいMLB保険の適用外である」という点です。

MLB機構の「NFP保険」ではなく、日本の損害保険会社や大会主催者(WBSC)が管轄する保険の適用を受ける。

こちらの審査はMLBほどビジネスライクで厳格ではないため、過去に怪我があっても「現在プレー可能」であれば出場できるケースがほとんどです。

プエルトリコやドミニカ共和国が「全員メジャーリーガー」であるがゆえに、保険審査でチーム崩壊の危機に瀕しているのに対し、「NPB組」という確固たる基盤を持つ日本代表は、チーム編成そのものが破綻するリスクは低いと言える。

しかし、世界一奪還のために「MLB組」の力が不可欠であることは間違いない。

【考察】WBCは「若手の見本市」に変わってしまうのか?

このままでは、WBCは「真の世界一決定戦」という看板を下ろさなければならなくなるかもしれない。

ベストメンバー規定の形骸化

WBCは本来、オリンピックから野球が除外された(当時)ことを受け、「メジャーリーガーを含む真のトップ選手が集う大会」として創設された。

しかし、実績あるスター選手ほど、長年の激闘により体に「傷(既往症)」を負っている。そして、実績ある選手ほど年俸が高い。

つまり、「実績があり、ファンが見たい選手ほど、保険審査に通りにくい」という矛盾した構造になってしまっている。


このままでは、WBCは「まだ大きな契約を持っていない若手選手」や「怪我歴のない中堅選手」が中心の大会(見本市)へと変質してしまう恐れがある。

今後の国際大会に求められる解決策

この問題を解決するには、抜本的な改革が必要です。

例えば、主催者であるMLB機構が巨額のプール金を用意し、保険会社がカバーしきれないリスクを肩代わりする「特別補償枠」を作るなどの対策が考えられる。

また、ロサンゼルス五輪(2028年)に向けて、IOCを含めた国際的な保険スキームの見直しも急務だろう。

まとめ

2026年WBCで起きている「保険適用外問題」は、単なる事務手続きの話ではない。

それは、プロ野球ビジネスの肥大化したマネーゲームが、純粋な競技の祭典を飲み込んでしまった結果である。

リンドーアが、コレアが、アルトゥーベがいないWBCは、メインディッシュのないフルコースのようなもです。

もちろん、代わりに出場する選手たちが新たなスターとなる可能性はあるが、「世界一」を決める大会である以上、そこには「最強の選手」が並んでいてほしいと願うのがファンの心理だ。

3月の開幕に向け、特例措置やルールの緩和などの「逆転劇」はあるのか。

それとも、プエルトリコ代表のボイコットという最悪のシナリオが現実となるのか。

グラウンドの外で行われている「保険会社との戦い」は今も続いている。

【編集後記】あの「奇跡」をもう一度

今回の保険問題を知れば知るほど、大谷翔平選手やダルビッシュ有選手らMLBのスターが一堂に会した2023年大会が、いかに「奇跡的なタイミング」だったかを痛感させられます。

2026年の開幕を待つ間、あの激闘の裏側を完全密着で描いたドキュメンタリーを見返して、気持ちを高めておくのも良いかもしれません。今見ると、また違った感慨があります。

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