スタジオジブリの作品は、テレビ放送されるたびにSNSのトレンドを席巻し、日本の映画興行収入ランキングでも常に上位に君臨しています。
「一番稼いだのは316億円の『千と千尋の神隠し』でしょ?」と、多くの方がご存知かもしれません。
しかし、ここで一つの疑問が浮かびます。
「デフレ真っ只中だった時代のチケット代と、物価高騰が進む現在のチケット代は、本当に同じ価値なのだろうか?」
現在の映画の大人料金は2,000円が主流ですが、昔はもっと安く、また日本全体の物価水準も現在とは大きく異なりました。
当時の興行収入をそのまま「歴代ランキング」として単純比較するのは、経済的な視点で見ると少し不公平です。
そこで今回は、総務省統計局が発表している「消費者物価指数(CPI)」の歴史的データを用いて、過去のジブリ作品の売上を「2026年現在の貨幣価値」にインフレ調整して再計算してみました。
すると、「あの名作2本」の順位をめぐる、歴史と経済が絡み合った衝撃の事実が浮かび上がってきたのです。

まずは、皆さんがよく知る「発表当時の金額(名目値)」での歴代トップ5をおさらいしておきましょう。
| 順位 | 作品名(公開年) | 興行収入 | 観客動員数 | キャッチコピー |
|---|---|---|---|---|
| 1位 | 千と千尋の神隠し (2001年) |
316.8億円 | 約2,350万人 | トンネルのむこうは、不思議の町でした。 |
| 2位 | もののけ姫 (1997年) |
201.8億円 | 約1,420万人 | 生きろ。 |
| 3位 | ハウルの動く城 (2004年) |
196.0億円 | 約1,500万人 | ふたりが暮らした。 |
| 4位 | 崖の上のポニョ (2008年) |
155.0億円 | 約1,287万人 | 生まれてきてよかった。 |
| 5位 | 風立ちぬ (2013年) |
120.2億円 | 約969万人 | 生きねば。 |
第2位の『もののけ姫』と第3位の『ハウル』の間には、約5.8億円の差があります。ここまでは誰もが知る普通のランキングです。

現在の価値に換算する前に、「そもそも昔と今で映画のチケット代はどれくらい違うのか?」という疑問にお答えします。
映連の統計によると、映画館の「平均入場料金(大人・子供・シニア・割引サービス等をすべて含めた1人あたりの平均単価)」は以下のように推移しています。
※大人の通常料金自体も、かつての1,800円から現在は2,000円へと値上げされています。
このように、昔の100億円と今の100億円では、「映画館に足を運んだ実際の人数(観客動員数)」の重みが全く異なります。
だからこそ、物価変動(インフレ率)を加味したフラットな計算が必要になるのです。
総務省の最新の消費者物価指数(2026年1月時点:112.9)を用いて、各作品が公開された年の物価水準から「現在の価値」へと換算した【真の興行収入】がこちらです。
| 順位 | 作品名 | 興行収入の変化 (名目 → 実質) |
増加分 |
|---|---|---|---|
| 千と千尋の神隠し |
発表時: 316.8億円
現在: 約369.9億円
|
↑ 約53億円UP | |
| もののけ姫 |
発表時: 201.8億円
現在: 約233.2億円
|
↑ 約31億円UP | |
| ハウルの動く城 |
発表時: 196.0億円
現在: 約231.7億円
|
↑ 約35億円UP | |
| 崖の上のポニョ |
発表時: 155.0億円
現在: 約180.8億円
|
↑ 約25億円UP | |
| 風立ちぬ |
発表時: 120.2億円
現在: 約143.0億円
|
↑ 約22億円UP |
物価変動を加味しても、やはり『千と千尋』の1位は揺るぎません。
現在の価値に直すと約370億円に迫るというとんでもない経済効果を生み出していました。スマホもネット予約も普及していなかった2001年にこの数字を叩き出したことは、まさに日本映画史における伝説です。
今回の計算で最も衝撃的だったのが、第2位『もののけ姫』と第3位『ハウル』の差です。
名目上の売上では約5.8億円の差がありましたが、現在の価値に換算すると、その差はわずか「約1.5億円」にまで激減し、ほぼ同額と言っていいレベルに肉薄します。 この理由は、公開当時の「日本の経済状況」にあります。
実は、実質興行収入トップ3に君臨する作品が公開された時期は、日本経済が沈んでいた時期と見事に重なっています。
- 1997年(もののけ姫・CPI 97.7): バブル崩壊後の不況が続く中、消費税が3%から5%に引き上げられ、北海道拓殖銀行や山一證券といった大企業が次々と経営破綻しました。社会全体に「明日どうなるかわからない」という不安が渦巻く中、本作のキャッチコピー「生きろ。」という強烈なメッセージが、当時の日本人の心に深く刺さったのです。
- 2004年(ハウルの動く城・CPI 95.5): 日本が歴史的な「デフレ(物価下落)」の底を這っていた時代。トップ5の中で最も物価水準が低くなっています。
つまり、お金の価値が高かった(物価が安かった)強烈なデフレ期に196億円を稼ぎ出した『ハウル』の実力は、見た目の数字以上に凄まじかったということです。
インフレ調整をかけることで、両作品の「真の売上差」はほぼ無かったことがデータから証明されました。

「他の名作はどれくらい稼いでいるの?」と気になる方のために、第6位以降の歴代ジブリ主要作品の興行収入(名目値)も一覧にまとめました。
| 順位 | 作品名(公開年) | 興行収入の変化 (発表時 → 現在の実質) |
|---|---|---|
| 6 | 君たちはどう生きるか (2023年) |
発表時: 約93.3億円
現在: 約99.7億円
|
| 7 | 借りぐらしのアリエッティ (2010年) |
発表時: 92.5億円
現在: 約110.1億円
|
| 8 | ゲド戦記 (2006年) |
発表時: 76.5億円
現在: 約90.4億円
|
| 9 | 猫の恩返し (2002年) |
発表時: 64.6億円
現在: 約76.1億円
|
| 10 | 紅の豚 (1992年) |
発表時: 約54.0億円 ※推計
現在: 約64.7億円
|
| 11 | 平成狸合戦ぽんぽこ (1994年) |
発表時: 約44.7億円 ※推計
現在: 約52.5億円
|
| 12 | 魔女の宅急便 (1989年) |
発表時: 約43.0億円 ※推計
現在: 約55.7億円
|
| 13 | 思い出のマーニー (2014年) |
発表時: 35.3億円
現在: 約40.8億円
|
| 14 | おもひでぽろぽろ (1991年) |
発表時: 約31.8億円 ※推計
現在: 約38.7億円
|
| 15 | かぐや姫の物語 (2013年) |
発表時: 24.7億円
現在: 約29.3億円
|
| 参考 | となりのトトロ (1988年) |
発表時: 約11.7億円 ※推計
現在: 約15.5億円
|
| 参考 | 天空の城ラピュタ (1986年) |
発表時: 約11.6億円 ※推計
現在: 約15.5億円
|
一覧表を見て、「え?『となりのトトロ』や『天空の城ラピュタ』が入っていないのはなぜ?」と驚いた方も多いのではないでしょうか。
実は、誰もが知るこの国民的アニメ2作品の映画館での興行収入は、わずか11億円台にとどまっています。
これには、当時の「アニメビジネスの構造」が深く関わっています。
1980年代後半、アニメ映画はまだ「子供向け」という認識が強く、大人が映画館でお金を払って見る文化が完全に定着していませんでした。事実、『となりのトトロ』は『火垂るの墓』との同時上映という形で公開されています。
当時のスタジオジブリは、映画館のチケット売上だけで莫大な利益を出すのではなく、「映画館で箔をつけ、その後のテレビ放送(金曜ロードショー)での放映権料や、ビデオ・DVDの販売、そしてキャラクターグッズの売上」で回収するというビジネスモデルでした。
特にトトロのぬいぐるみの爆発的なヒットが、その後の経営を支えたと言われています。
時代の移り変わりとともに、「映画の稼ぎ方」も大きく変化してきた歴史がわかります。

| 作品名(海外公開年) | 日本国内の興行収入 | 海外の主要な興行収入 | グローバル展開の背景・解説 |
|---|---|---|---|
| 君たちはどう生きるか(海外: 2023年〜) | 約93.3億円 |
中国: 約160億円 北米: 約72億円 |
日本国内を遥かに凌ぐ売上を中国と北米だけで記録。第96回アカデミー賞受賞も後押しし、ジブリ史上最大の「外貨獲得」作品となった。 |
| 千と千尋の神隠し(中国: 2019年) | 316.8億円 | 中国: 約75.6億円 | 日本公開から18年越しに中国本土で正式上映され、約75億円の大ヒット。古い作品でも「巨大市場」で再上映すれば莫大な利益を生むことが証明された。 |
| となりのトトロ(中国: 2018年) | 約11.7億円 ※当時の推計値 |
中国: 約27億円 | デジタルリマスター版として中国で初上映。日本での公開当時の映画館売上(推計約11.7億円)を、30年後の中国市場だけであっさりと超えてしまった。 |
ここまでは「日本国内の興行収入」と「日本の物価」に絞って考察してきましたが、現在のスタジオジブリを語る上で外せないのが「海外市場(外貨獲得)」です。
例えば、2023年公開の『君たちはどう生きるか』は、国内では約93億円の興行収入でしたが、北米市場では初登場1位を獲得し、第96回アカデミー賞で長編アニメーション賞を受賞しました。
さらに中国でも異例の大ヒットを記録し、世界興行収入では莫大な金額を叩き出しています。
また、過去の作品(『千と千尋』や『トトロ』など)も、近年になって中国の映画館で正式に公開され、何十億円という新たな売上を作っています。
日本国内の人口減少とチケット代の限界が見える中、スタジオジブリのビジネスは「日本人が映画館で見るもの」から「世界中の人々が消費するグローバル・コンテンツ」へと、見事に歴史的転換を遂げているのです。
本記事の「実質興行収入」は、以下の公的データおよび計算式を用いて算出しています。客観的な事実に基づき、可能な限り正確な貨幣価値の比較を行いました。
- 計算式:
当時の興行収入 × (直近の消費者物価指数 ÷ 公開年の消費者物価指数) = 現在の実質興行収入 - 物価データの出典: 総務省統計局「消費者物価指数 (CPI)」2020年基準 年平均指数(※直近値は2026年1月分の「112.9」を使用) 総務省統計局 e-Stat(政府統計の総合窓口)
- 興行収入・平均入場料金の出典: 一般社団法人 日本映画製作者連盟(映連) 過去興行収入上位作品・全国映画概況 日本映画製作者連盟 公式サイト
消費者物価指数を用いてフラットに計算し直すことで、『もののけ姫』と『ハウル』の実力がほぼ互角であったという驚きの歴史が見えてきました。
また、社会が不安に包まれている不況期にこそ、人々はジブリ作品に救いとエンターテインメントを求めていたという事実も浮かび上がりました。
時代を超えて愛されるジブリ作品。次にテレビ放送される際やDVDで見返す際は、公開当時の「日本の経済状況」も思い出しながら見てみると、また違った面白さが発見できるはずです。
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