「カレーの日」の現代史:止まらない価格高騰と、ルーからレトルトへの転換

1月22日は「カレーの日」です。 1982年(昭和57年)、全国学校栄養士協議会の呼びかけにより、全国の小中学校で一斉にカレー給食が提供されたことに由来する記念日になります。

SNSでは「今日の夕飯はカレーにしよう」という明るい投稿が飛び交うが、この記事では少し視点を変えてみたいと思います。

この国民食をとりまく数字を並べてみると、そこには日本社会の変容と、私たちが直面している経済の厳しさがくっきりと刻まれているからです。

止まらない価格高騰と「451円」の衝撃

かつて「物価の優等生」と呼ばれたカレーです。優等生と言われた理由は3つあります。

  • 「じゃがいも・玉ねぎ・にんじん」は長期保存がきき、価格が年間を通して安定していたため、家計計算がしやすい
  • 市販のカレールウは長期保存食品であり、特売の対象になりやすい
  • 肉が少なくても野菜を多くすればボリュームが出せるうえ、冷蔵庫の余り野菜を何でもつかうことができる

しかし、物価高の影響でカレーの価格高騰が止まりません。

以下のグラフは帝国データバンクが算出している「カレーライス物価指数」になります。

【衝撃】カレー価格 vs 一般物価指数の乖離
出典:帝国データバンク「カレーライス物価指数」、総務省「消費者物価指数」より作成
データ読み解き:
グレーの線(一般物価)は緩やかな上昇に留まっていますが、オレンジの線(カレー)は2023年以降、そのトレンドを無視して急騰しています。
かつて物価指数と並走していた「物価の優等生」カレーライスが、インフレの特異点となってしまった様子が見て取れます。

帝国データバンクが算出している「カレーライス物価指数」によれば、カレーライス1食あたりの調理コストは上昇を続け、2025年には451円という過去最高値を記録しました。

これは前年同月比で見ても10%以上の上昇です。

なぜここまで上がってしまったのか。その内訳を見ると、深刻な日本の食糧事情が浮き彫りになります。

  • 米価の高騰: 「令和の米騒動」とも呼ばれる需給の逼迫により、カレーの土台である「ご飯」の原価が跳ね上がった。これが最大の押し上げ要因です。
  • 輸入肉の値上がり: 円安の影響をもろに受け、安価だった輸入牛肉や豚肉が高級品になりつつある。
  • 野菜の乱高下: 気候変動による不作で、ジャガイモや玉ねぎが安定しない。

2017年:ルーからレトルトへ、構造の転換

2017年は、カレーの歴史における巨大な転換点になりました。

この年、総務省の家計調査において「レトルトカレー」の購入額が、ついに「カレールー」の購入額を上回りました。この差は現在も拡大傾向にあります。

以下のグラフを見てください。

カレールー vs レトルトカレー 支出金額の逆転
1世帯あたり年間支出額(二人以上の世帯)
データ解説:
2016年までは「手作り(ルー)」が上回っていましたが、2017年についに逆転した。以降、レトルト(赤)は時短需要と高価格帯商品のヒットにより右肩上がりですが、ルー(青)は減少傾向にあります。
この「X字」のクロスポイントが、日本の食卓が「個食・時短」へシフトした決定的瞬間です。
  • 逆転の瞬間: 2016年までは数百円差でルーが勝っていましたが、2017年にレトルト(約1450円)がルー(約1380円)を追い抜きました。これは間違いのない事実です。
  • 2020年の小さな山: グラフの青い線(ルー)が2020年に少し盛り上がっています。これはコロナ禍の「巣ごもり需要」で一時的に自炊が増えたためですが、それでもレトルト(赤線)の伸びには敵わず、その後すぐに減少に転じているのがリアルな現実です。

「箱ごとレンジ」という技術革新

かつてカレーといえば、週末に家庭で「大鍋で煮込む」ものでした。

「ボンカレー」などのレトルト商品はあくまで緊急用や手抜きというイメージが強かったかもしれません。

しかし、共働き世帯や単身世帯の増加に加え、決定的だったのが「電子レンジ対応パウチ」の普及です。

湯煎でお湯を沸かす手間すら惜しまれる現代において、「箱ごとレンジでチン」できる技術は、カレーの立ち位置を劇的に変えました。

さらに、「無印良品」の本格カレーシリーズや、名店監修系の高価格帯レトルトが台頭し、「家で作るより美味しい」という価値観が定着したのもこの頃からです。

「家族全員で同じ味」から、「個々人が好きなタイミングで、好きな味を温める」へ変化しました。

カレーにおける主役の交代劇は、日本社会の「個食化」と「効率化」への構造転換(パラダイムシフト)を端的に物語っている。

「作るより買う」のパラドックス

「手作り」vs「レトルト」コスト逆転の真実
1食あたりの総コスト比較(ご飯代・光熱費含む)
データ解説:
2020年時点では、手作りの方が割安(あるいは同等)でした。
しかし2026年現在、手作りカレー(451円)は、野菜・肉・米のトリプル高騰をすべて被り、価格が跳ね上がっています。
一方、レトルト活用(280円)は、お米の値上がり分(約150円)を含めても、大量生産によるパウチの安さ(約130円)が効いており、手作りの約6割のコストで済みます。
「節約するならレトルト」というパラドックスは、データ上でも証明されました。

皮肉なことに、材料を揃えて一から作るよりも、100円〜200円台の特売レトルトを買ったほうが安上がりになるという逆転現象も起きている。

かつて、安くてお腹いっぱいになる節約メニューの代表格だった「手作りカレー」は、いまやインフレの痛みを最も実感させる贅沢品となりつつあります。

カレー物価高での「みんなの関心」の変化

「映え」の質の変化(黒と断面)

「高くて手が出ないなら、せめて視覚的な『お得感』が欲しい」

材料費が高騰した今、消費者は「中途半端なカレー」にお金を出したくないという心理が強働いています。

なぜ「黒」なのか?(高級感の代替)
  • 黄色い家庭的なカレーは「家で作ると高いくせに、見た目は普通」になってしまいました。
  • 一方、「黒いカレー(ブラックカレー)」は、焙煎されたスパイスや煮込まれたコクを連想させ、「自分では作れないプロの味」「手間暇=コストがかかっている」という説得力があります。
  • 反応: 「どうせ1,000円以上払うなら、家では絶対に出せない色のカレーがいい」という、失敗したくない心理が「黒」への支持につながっています。
激辛・シャバシャバ系 ★ 黒カレーの絶対王者

デリー「カシミールカレー」

💰 価格目安:600円〜1000円

人気の理由:
「ネオ・カシミール」ブームの原点にして頂点です。真っ黒でサラサラのソースは、激辛なのに中毒性があります。「お店の味再現率No.1」との呼び声も高く、カレー好きが常備するレトルトの筆頭です。

💡 おすすめの食べ方
具が鶏肉とジャガイモだけとシンプルなので、焼いたチキンや素揚げ野菜を足すと、一気にお店のクオリティになります。

なぜ「断面(ゴロゴロ感)」なのか?(可視化されたコスパ)
  • ルーやソースに溶け込んだ旨味は、写真では伝わりにくいです。
  • 物価高で具材が小さくなりがちな中、「はみ出るほどの具」「分厚いカツ」は、一目で「元が取れる」と脳が判断します。
  • 反応: SNSで「具が小さい」という口コミは致命傷になりやすいため、店側も消費者側も「目で見てわかるボリューム(=金銭的価値)」を極端に重視するようになりました。
野菜ゴロゴロ部門 ★ 驚異の300g!

無印良品「素材を生かした ごろごろ野菜と豚ひき肉の大盛りカレー」

💰 価格目安:390円前後(定価ベース)

人気の理由:
満足感のある「大盛り(300g)」サイズ。特筆すべきはジャガイモの大きさで、豚ひき肉の旨味を吸った野菜をガッツリ食べるためのカレーです。一般的なレトルト(180g)の約1.5倍以上のボリュームがあります。

💡 おすすめの食べ方
ルーが300gと非常に多いため、ご飯もしっかり大盛り(300g〜)用意するのが正解。途中で「粉チーズ」や「温玉」を落として味変するのもおすすめです。

「健康」と「背徳」の二極化

「我慢(節約・健康)の反動で、たまには爆発したい」

物価高は精神的なストレスも溜まります。普段は財布の紐を締めている分、使うときは極端な方向へ振れます。

健康・節約サイド(日常の防衛)
  • 「鯖缶カレー」「厚揚げカレー」:高価な肉の代わりに、安価で栄養価の高い缶詰や大豆製品を使う動きです。「お金がないから」と言うと惨めですが、「健康のため(グルテンフリーなど)」と言い換えることで、ポジティブに節約を楽しもうとしています。
  • 反応: 「肉なしでも満足できるレシピ」への需要がかつてないほど高まっています。
背徳サイド(ストレス発散)
  • 「カツカレー」「全部のせ」:普段節約している分、外食やたまの贅沢では「カロリーもコストも度外視」したものを求めます。
  • 松屋などのチェーン店:1,000円以下でギリギリ食べられる「ガッツリ系」として、松屋などの限定カレーは「庶民に残された最後の楽園」として熱狂的に迎えられます。
  • 反応: 中途半端なヘルシーカレーよりも、「茶色一色」の圧倒的なカロリーが、物価高疲れの癒やしとして機能しています。

「内食」のアップグレード(レトルトの貴族化)

「作るより買った方が安くて美味い、という『逆転現象』への適応」

ここが最も切実なポイントです。かつては「節約=自炊」でしたが、2025年は「自炊=贅沢(野菜と光熱費が高い)」になりつつあります。

「作る」から「選ぶ」楽しみへ
  • じゃがいも・玉ねぎ・肉・ルー・油・ガス代を計算すると、一鍋作るのに驚くほどのコストがかかります。しかも、大量に作ると毎日同じ味です。
  • それならば、「500円〜800円の高級レトルト」を買ったほうが、結果的に安く、しかも毎日違う名店の味が楽しめます。
  • 反応: これまで「手抜き」と思われがちだったレトルトが、「賢い選択」「プチ贅沢」へとポジティブに変換されました。
  • 検索行動の変化: 「カレー レシピ 簡単」よりも、「無印 カレー ランキング」「成城石井 おすすめ レトルト」のような、「失敗しない商品選び」の検索が増えています。
肉ゴロゴロ部門 ★ 無印の本気(大人向け)

無印良品「焙煎スパイスのごろり牛肉カレー」

💰 価格目安:500円〜600円前後

人気の理由:
無印の中でも特に「肉の存在感」に振った商品です。商品名の通り、煮崩れしていないしっかりとした牛肉の塊が入っています。焙煎スパイスの香ばしい苦味があり、味も本格的。「レトルトっぽくない高級感」を味わいたい時におすすめです。

💡 おすすめの食べ方
ルーの味が濃厚でビターなので、白いご飯はもちろん「バゲット」や「ナン」とも相性抜群。赤ワインのお供にもなります。