【裏事情】自転車取り締まり強化の理由は「財源確保」〜消えた交通反則金と警察の思惑〜

近年、街角や交差点で警察官が自転車を呼び止め、厳しく指導・摘発している光景を目にする機会が劇的に増えました。

「今まで注意で済んでいたのに、なぜ急に厳しくなったのか?」と疑問に思う方も多いでしょう。

ちまたではよく、「車の違反が減って警察の収益(ノルマ)が減ったから、代わりに自転車から罰金を取ろうとしているんだ」という噂が囁かれます。結論から言うと、

この噂は「個人の警察官が儲かる」という意味では完全に誤りですが、「国や行政の財源システム」というマクロな視点(大きい見方)で見ると、実は非常に的を射た鋭い指摘になります。

本記事では、2026年までに本格導入される「自転車への青切符(反則金)制度」の背景にある、行政システムの限界、交通インフラ財源の枯渇問題、そして現代のライフスタイルが引き起こした社会構造の変化まで、多角的な視点から「自転車取り締まり強化の本当の理由」を徹底解説します。

警察は「車の反則金減」を自転車で穴埋めするのか?(資金とシステムの真実)

自転車の取り締まり強化について語るさいに、最も議論の的になるのが「お金の流れ」です。

警察は本当に減収の穴埋めとして自転車を狙っているのでしょうか。

まずは、交通違反の罰金(反則金)がどこへ行くのかというシステムから紐解いていきましょう。

反則金は直接のボーナスにはならないが「出世の点数」にはなる

大前提として、交通違反の切符(青切符)を切ったからといって、その反則金が警察官の給料に直接上乗せされたり、警察署の裏金になったりすることはありません。

ドライバーやライダーから集められた反則金は、一度「国庫(国のお財布)」に納められ、その後「交通安全対策特別交付金」として全国の自治体に再配分される仕組みになっています。

しかし、だからといって現場の警察官に「点数稼ぎ」のインセンティブが全くないかと言えば、それは明確に否です。

警察組織には「活動実績(事実上の目標件数・ノルマ)」が存在します。

交通違反を多く摘発する警察官は「真面目に職務を遂行している優秀な人材」として人事評価(勤務評定)が高くなります。

評価が高まれば、昇任試験での推薦が得られやすくなったり、希望する部署へ異動しやすくなったりと、明確に「出世(キャリアアップ)」に直結するのです。

当然、階級が上がれば将来的な給与や退職金も増加します。

つまり、「切符を切って直接小遣いをもらう」わけではないものの、「切符を切る(実績を作る)ことが己の出世と将来の収入に繋がる」という強烈なモチベーションが現場レベルで働いているのは間違いありません。

そして問題なのは、この「現場の警察官の出世欲(点数稼ぎ)」と、前述した「行政側のインフラ財源確保(国の収益確保)」という上下の思惑が、「自転車への青切符導入」という形で完全に一致してしまったという点なのです。

反則金の使い道は「ガードレール」や「信号機」に限定されている

では、配分された交付金は何に使われるのでしょうか。

実は、法律によってその用途は極めて厳しく制限されています

新しい道路を造るためのアスファルト代などには使えず、「信号機」「ガードレール」「横断歩道」「道路標識」「カーブミラー」といった『交通安全施設の設置と管理』にしか使えないルールになっています。

私たちが日々安全に道路を歩けるのは、物理的なガードレールや正確に動く信号機があるからです。

そして、これらのインフラを新設したり、古くなったものを維持・補修したりするための莫大な費用は、長年にわたり「交通違反者が支払った反則金」という財源によって大きく支えられてきたという歴史的背景があります。

車の反則金半減による「インフラ財源の枯渇」という危機

ここで、国家規模の構造的な問題が浮上します。

自動車の自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)や運転支援システムなどの安全技術の飛躍的な向上、高齢ドライバーの免許返納の増加、そして飲酒運転などの厳罰化により、日本の交通事故と交通違反は近年激減しています。

年度 反則金収入(交付金ベース) 主な社会背景・減少の要因
1990年度(平成2年) 約 1,000 億円 交通戦争・取り締まり件数のピーク期
2000年度(平成12年) 約 850 億円 自動車保有台数の増加と交通網の拡大
2010年度(平成22年) 約 700 億円 飲酒運転の厳罰化(2007年等)の定着
2020年度(令和2年) 約 530 億円 安全運転支援システム(自動ブレーキ等)の普及
2023年度(令和5年) 約 500 億円 重大な交通違反の激減による財源半減


これは社会全体にとって非常に喜ばしいことですが、行政の「お財布事情」から見ると別の景色が広がります。

かつて、交通違反の反則金収入はピーク時(1980年代後半〜90年代)には年間1,000億円近くに達していましたが、近年では約500億円規模にまで半減しているのです。

反則金が減るということは、各自治体に配られる「交通安全対策特別交付金」も減ることを意味します。

老朽化するガードレールを交換したくても、新しい信号機を設置したくても、その原資となる予算が足りなくなってきているのです。

「財源ターゲットのスライド」

インフラを維持するためには、行政全体として新たな財源を確保しなければなりません。そこで白羽の矢が立ったのが、これまで実質的に「お咎めなし」の状態が続いていた自転車です。

「車の反則金頼みで作っていたガードレールや信号機が、車の違反激減によって作れなくなってきた。だから、新しく自転車に青切符(反則金)制度を導入し、そこから得られる反則金を新たな財源としてスライドさせ、減少したインフラ予算を補填する」

このように、行政のシステム構造と予算確保という視点から分析すれば、「国が収益(インフラ維持財源)を確保するために自転車を取り締まっている」というロジックは、非常に理にかなった事実と言えます。

刑事司法システムの完全なパンクと「青切符」への移行

財源の問題に加え、これまでの法的システムが限界を迎え、完全にパンク状態に陥っていたことも、現在の取り締まり強化の大きな要因です。

98%が「お咎めなし」だった赤切符(刑事罰)の限界

2024年の道路交通法改正(2026年までに施行)以前、自転車の交通違反には、自動車のような「青切符(行政罰としての反則金)」の制度が存在しませんでした。

そのため、自転車の違反者を取り締まる場合、いきなり前科がつく可能性のある「赤切符(刑事手続き)」を切るしか方法がなかったのです。

しかし、この赤切符制度は実務上、完全に機能不全に陥っていました。

警察官が信号無視の自転車を捕まえて赤切符を切ると、現場での長時間の取り調べ、調書の作成、指紋の採取など、莫大な事務作業が発生します。

そして書類を検察に送付(書類送検)しても、悪質なひき逃げや重傷事故などを除き、実に98%以上が「起訴猶予(事実上のお咎めなし)」として処理されていました。

自転車の赤切符 送致後の処分内訳(目安)

膨大な事務手続きを経て書類送検しても、現実はほぼ「お咎めなし」

不起訴・起訴猶予(約98%)
起訴
約2%

※法務省「検察統計」等における自転車違反の起訴率推計より作成

年次 自転車の交通違反 検挙件数
(赤切符・送致件数)
現場・実務への影響(刑事司法の限界)
2014年(平成26年) 8,070 件 まだ現場での「警告」が中心だった時期
2019年(令和元年) 22,859 件 取り締まり強化により検挙件数が約3倍に
2022年(令和4年) 24,545 件 送致書類の作成など警察の事務的負担がパンク寸前に
2023年(令和5年) 44,207 件 前年比で一気に約1.8倍に激増。
現行の刑事手続き(赤切符)による処理が完全に限界を迎える
参考文献:警察庁「自転車の交通指導取締り状況」「令和5年版 犯罪白書」より作成

骨折り損を解消する「青切符(反則金)」の導入

警察にしてみれば、何時間もかけて書類を作っても、最終的には何のペナルティも与えられない「骨折り損のくたびれ儲け」です。

違反者側も「どうせ前科なんてつかないだろう」と高を括るようになり、法の抑止力が全く働かない無法地帯と化していました。

この異常な状態を正常化し、警察・検察の無駄な事務的コストを削減するために導入されるのが「自転車への青切符(反則金)制度」です。

16歳以上を対象とし、信号無視や一時不停止、右側通行(逆走)、スマートフォンを使用しながらの「ながら運転」など、約113種類の違反に対して、5,000円〜12,000円程度の反則金が科されるようになります。

現在、街中で見かける厳しい自転車の取り締まりは、この2026年の新制度本格稼働に向けた「警察内部の実務訓練」であり、同時に「これからは本当に容赦なく罰金を取るぞ」という社会に対する強烈なデモンストレーション(周知徹底)なのです。

データが浮き彫りにする「交通事故ターゲットの移行」

取り締まりのターゲットが自動車から自転車へシフトせざるを得ない理由は、警察庁が発表する統計データにも如実に表れています。

交通事故全体の激減と、目立つ自転車事故の高止まり

日本の交通事故発生件数は、ピークであった2004年(平成16年)には約95万件に達していましたが、現在では年間30万件台へと、実に3分の1以下にまで激減しています。これは前述した車の安全性能向上や法整備の賜物です。

しかし、全体の事故が劇的に減っている一方で、自転車関連の事故件数は年間7万件前後で高止まり、あるいは微増傾向にあります。

年次 全交通事故 発生件数 自転車関連事故 件数 自転車事故の割合
1990年(平成2年) 643,097 件 72,086 件 11.2 %
2004年(平成16年)
※事故総数のピーク
952,720 件 188,338 件 19.8 %
2013年(平成25年) 629,021 件 121,040 件 19.2 %
2023年(令和5年) 307,930 件 72,339 件 23.5 %

直近の交通事故構成比(令和5年)

「約4件に1件」が自転車絡みという異常事態

自動車・二輪車・歩行者などの事故(76.5%)
自転車事故
23.5%
参考文献:警察庁「令和5年中の交通事故の発生状況」「交通統計」より作成

全事故の「4件に1件」が自転車という異常事態

全体のパイ(総事故件数)が縮小しているのに、自転車事故の数が減らなければどうなるか。当然、交通事故全体に占める「自転車事故の割合」が跳ね上がります。

かつては交通事故全体の10%台だった自転車事故の割合は、年々上昇を続け、現在では20%台後半にまで達しています。

およそ「4件に1件」が自転車絡みの事故という異常事態です。

警察や行政にとって、限られたリソース(人員と予算)を投入して交通死傷者を効果的に減らすためには、最もリスクが高まっている部分を狙い撃ちにするのが鉄則です。

統計上、今の日本で最もメスを入れるべき交通課題が「自転車」として完全に可視化されてしまった結果が、現在の厳しい取り締まりなのです。

ライフスタイルの変化が生んだ「新たな無法地帯」

マクロな予算システムや統計データだけでなく、私たちの身近な生活様式(ライフスタイル)の劇的な変化も、警察を本気にさせた強力な要因です。

ギグエコノミー(フードデリバリー)の定着と危険運転

コロナ禍における「業務目的(配達等)」の自転車対歩行者 事故件数

年次 社会的背景 業務目的の
自転車対歩行者 事故件数
前年比
2019年(令和元年) コロナ禍以前(デリバリー普及前夜) 97 件
2020年(令和2年) コロナ禍突入・ギグワーク急増 156 件 約 60.8 %増
参考文献:内閣府「令和3年版 交通安全白書(第35図)」より作成

「自転車 対 歩行者」事故の発生場所(歩道での事故が多発)

本来、歩行者が絶対保護されるべき「歩道上」で約半数の事故が発生

歩道上(約45%)
交差点内
(約35%)
車道・他
(約20%)
参考文献:警察庁「自転車関連交通事故の状況」直近の類型別統計より推計作成


コロナ禍を契機に、UberEatsや出前館などに代表される自転車でのフードデリバリーサービスが日本の日常に完全に定着しました。

これらの配達員は「ギグワーカー」と呼ばれ、配達件数が直接収入に直結するシステムの中で働いています。

結果として「1分1秒でも早く配達して稼ぎたい」というインセンティブが強く働き、一部の配達員による信号無視、歩道の爆走、一方通行の逆走といった危険運転が常態化しました。

これにより、歩行者(特に回避能力の低い高齢者や子供)が重傷を負う事故が多発し、社会的・世論的な批判が沸点に達しました。

「自転車をもっと厳しく取り締まれ」という市民の怒りの声が、警察の背中を強く押したのです。

モペット(違法電動自転車)の無法地帯化と無法の可視化

違法モペット(ペダル付き原動機付自転車)の事故・検挙件数推移

年次 人身交通事故 件数 交通違反 検挙件数 状況・背景
2022年(令和4年) 27 件 96 件 一部の都市部で問題化し始める
2023年(令和5年) 57 件 345 件 事故が倍増し、警察が本格的な取り締まりへ
2024年(令和6年) 68 件 2,538 件 検挙件数が前年比で一気に「約7.3倍」へ激増

違法モペットの交通違反 類型別内訳(令和5年)

「免許を持たず、ナンバーも付けず、歩道を走る」実態が明確に

無免許運転 32%
整備不良(ナンバー無し等) 30%
歩道等走行(通行区分違反) 13%
その他 25%

特に都市部において深刻な問題となっているのが、ペダル付きの原付バイク、いわゆる「モペット」の横行です。

見た目は自転車に近いものの、モーターの力だけで進むことができるモペットは、法律上「原動機付自転車(バイク)」に分類されます。

したがって、ナンバープレートの取得、自賠責保険の加入、ヘルメットの着用、そして運転免許が必須です。

しかし、「これはフル電動アシスト自転車だから」と偽り、無免許・ノーヘル・ナンバー無しで歩道を爆走する違法モペットが急増しました。

これらは重大事故に直結する極めて危険な存在であり、警察も「自転車に似た乗り物」に対する根本的な取り締まりスキームの強化を迫られました。

スマホとイヤホンの普及による「ながら運転」の悪質化

運転中の「ながらスマホ」による死亡事故率の比較

画面を注視する行為は、致死率が「約4倍」に跳ね上がる

スマホ使用なし
基準 (1倍)
スマホ使用あり
約 4 倍 の致死リスク

※死傷事故に占める死亡事故の割合(警察庁調べ)

【緊急措置】2024年11月施行の自転車に対する新罰則(重罰化)

違反行為(自転車) 改正後の厳しい刑事罰(赤切符対象)
ながらスマホ(保持・注視) 6ヶ月以下の拘禁刑 又は 10万円以下の罰金
※手に持って通話する、画面を注視する行為
ながらスマホ(交通の危険) 1年以下の拘禁刑 又は 30万円以下の罰金
※スマホを使用して事故を起こすなど、具体的な危険を生じさせた場合
酒気帯び運転 3年以下の拘禁刑 又は 50万円以下の罰金
※自転車の提供者や、酒類の提供者・同乗者にも同等の重罰
参考文献:警察庁「やめよう!運転中のスマートフォン・携帯電話等使用」、道路交通法の一部を改正する法律(令和6年)より作成

スマートフォンの普及と、ノイズキャンセリング機能付きの高性能ワイヤレスイヤホンの一般化により、自転車の「ながら運転」が蔓延しました。

画面を見ながら、あるいは周囲の音を完全に遮断した状態で数十キロの鉄の塊を走らせる行為は、まさに走る凶器です。

2024年11月の道交法改正で、自転車の「ながらスマホ」と「酒気帯び運転」に対する罰則がいち早く重罰化(即赤切符の対象になり得る)されたのも、こうした現代特有のライフスタイルの変化に法整備を追いつかせるための緊急措置でした。

⚠️ 取り締まり強化と合わせて確認すべき「自転車保険の義務化」

前述の通り、自転車事故が全体の25%を占める異常事態を受け、現在ほとんどの都道府県で自転車保険(個人賠償責任保険)への加入が「義務」または「努力義務」に指定されています。

万が一、歩行者と接触して重篤な後遺症を負わせてしまった場合、過去の判例では9,000万円を超える損害賠償が命じられたケースもあります。青切符の反則金(数千円)どころではない、人生を左右するリスクが今の自転車には潜んでいます。

もし「自分が保険に入っているかわからない」「何も対策していない」という場合は、まずはネットから入れる少額の保険で、最低限のカバーをしておくのが最も賢明なリスク管理です。

例えば、楽天市場の「自転車保険プラン(本人型)」であれば、月額換算で約185円程度(年払2,220円)という出費で、相手への賠償を最高1億円までカバーできます。

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激変する自転車の立ち位置と、新しい交通社会の幕開け

自転車の取り締まりが急激に厳しくなった理由は、決して「現場の警察官が点数稼ぎをしているから」といった単純なものではありません。そこには、以下の4つの重層的な「本当の理由」が存在しています。

  1. インフラ財源の確保: 車の違反減によって枯渇しつつあるガードレールや信号機の整備費(交通安全対策特別交付金)を、自転車の反則金で補填するというマクロな予算システムの移行。
  2. 法的システムのアップデート: 98%が不起訴になっていた「赤切符」の限界を悟り、確実に行政罰を与えられる「青切符」制度を2026年に本格稼働させるための地ならし。
  3. 統計データの警告: 交通事故全体が激減する中、自転車事故の割合だけが20%台後半(4件に1件)へと跳ね上がったという統計的現実。
  4. 社会構造の劇的な変化: フードデリバリーの定着、違法モペットの増加、スマホ・イヤホンによる「ながら運転」の常態化に対する社会的な怒りと要請。

私たちが現在目撃しているのは、昭和から平成にかけて作られた「自動車中心の交通システム」が終わりを告げ、自転車や電動キックボードといった多様な乗り物が共存する「次世代モビリティ社会のルール」へと移行する、まさにパラダイムシフトの瞬間なのです。

2026年の青切符導入を待たずとも、すでに自転車は「気軽な乗り物」から「法律と責任を伴う軽車両」へと明確に位置付けが変わりました。

道路インフラを維持する新たな財源の担い手として、そして悲惨な事故を防ぐ当事者として、私たち一人ひとりが自転車という乗り物に対する意識を根本からアップデートする時期に来ていると言えるでしょう。