「洗い物をしている時、勝手に次の動画に切り替わってくれればいいのに」 「ご飯を食べている時、いちいち指でスワイプするのが面倒くさい」
TikTokやYouTubeショートを見ている時、一度はこう思ったことがあるはずです。
技術が進歩しているのに、アプリに「自動スクロール機能」を実装すること簡単じゃないのと。
しかし、主要なショート動画アプリは、頑なにこの機能をデフォルトにしない(※一部のアクセシビリティ設定を除く)。
これは単なる「不親切」ではなく、私たちユーザーをアプリから離脱させないための、行動心理学とビジネスに基づいた「残酷な計算」が隠されています。
今回は、なぜショート動画は「手動」でなければならないのか? その4つの理由を考察します。

最大の理由は、私たちの脳内物質「ドーパミン」の制御にあります。
行動心理学には「間欠的強化(Variable Reward)」という概念があります。
有名な「スキナー箱」の実験で知られる通り、ネズミは「レバーを押すと必ず餌が出る」時よりも、「レバーを押すと、出るか出ないかわからない(ランダム)」時の方が、熱狂的にレバーを押し続けることがわかっています。
これを人間に応用したのがギャンブルの「スロットマシン」であり、TikTokの「スワイプ」です。
- スワイプする動作 = スロットのレバーを引く動作
- 次の動画 = 当たり(面白い)かハズレ(つまらない)かわからない
もし自動スクロールにしてしまうと、この「自分でめくる」という自ら動くアクションが消え、自ら何もしない「テレビ視聴」と同じ状態になります。それでは脳への刺激が弱く、飽きやすくなってしまいます。
開発者は、あえて私たちに指を動かせ続けることで、脳を「スロット中毒」と同じ状態にしていると言えます。

TikTokやYouTubeのレコメンド機能(おすすめ)が優秀なのは、AIが私たちの好みを学習し続けているからです。
では、AIは何を餌にしているのか?
それこそが「あなたの指の動き」にあります。
- 即スワイプした → 「興味なし」という強い意思表示
- 最後まで見た → 「普通・好き」
- 2周した → 「大好き」
もし自動スクロール機能がオンになっていると、AIは「ユーザーが動画を食い入るように見ているのか、それともスマホを放置してトイレに行っているのか」を判別できなくなります。
ユーザーにスワイプさせることは、AIにとって「私は今、画面を見ていますよ」という生存確認信号を送らせる行為になります。
これによりユーザーの好みの画像をAIが学習して、最適な動画を提供し続け、動画を見続けさせようとします。

ショート動画特有の文化として、「動画をBGMにしながらコメント欄を読む」という楽しみ方があります。
映像そのものは15秒で終わっても、コメント欄で面白い大喜利や議論が起きていれば、ユーザーは動画を何周もループ再生させながらコメントを読み続けます。
これが自動スクロールになるとどうなるか?
コメントを読んでいる最中に、勝手に次の動画へ飛ばされてしまうことになります。
これではユーザー体験(UX)として最悪であり、プラットフォーム側としても「滞在時間(Watch Time)」を稼げなくなります。
動画をループさせ、議論を過熱させるためにも、ページ送りは「手動」である必要があります。

ショート動画プラットフォームの収益源は「広告」になります。企業が高い広告費を払うのは、ユーザーにその広告を「見て」ほしいからです。
もし自動スクロールが可能になれば、ユーザーはスマホを机に置き、ラジオ感覚やBGMとして広告「流し見(流し聞き)」をするようになる可能性があります。
そうなれば、動画の間に挟まる広告も「視認」されなくなります。
アプリ側は、ユーザーにスワイプを強制することで、「常に画面に視線を固定させる」ことができる。 次に指を動かすその瞬間に、確実に広告を目に入れさせる。そのための「手動」にしています。
5つ目の理由は、心理学というより「脳のバグ」を利用した構造にある。
人間が何か行動をやめる時、そこには必ず「停止信号(Stopping Cues)」が必要になります。
例えば、新聞なら「ページが尽きる」、テレビなら「番組が終わる」、食事なら「お皿が空になる」といった、区切りとなるサインのことです。
これを見て、私たちの脳は「さて、次はどうするか」と冷静な判断を下すことができる。
しかし、TikTokやYouTubeショートには、この「停止信号」が存在しません。 スワイプすれば無限に次が出てくるため、脳は「終わった」と認識するタイミングを永遠に失います。
実は、この「底なしにコンテンツが続く仕組み(無限スクロール)」を開発したアザ・ラスキン(Aza Raskin)氏は、後に自身の発明を「行動のコカインだ」と呼び、後悔していることを公言しています。
2018年のBBCニュース(Panorama)のインタビューなどで、彼は明確にこの表現を使っています。
“It’s as if they’re taking behavioral cocaine and just sprinkling it all over your interface and that’s the thing that keeps you like coming back and back and back.” (それはまるで、行動のコカインをインターフェース全体に振りまいているようなものです。それこそが、ユーザーを何度も何度も戻ってこさせる要因なのです。)
TikTokの「手動スワイプ」は、一見すると「区切り」のように見えます。
しかし実際は、「次のドーパミンへの引き金」として機能しており、停止信号としては機能していません。
自動スクロールにしてしまうと、ふと「飽きたな」という停止信号が生まれやすくなるが、手動スワイプという「作業」を挟むことで、その思考の隙間さえも埋めているのである。
ちなみにアザ・ラスキン氏は2006年、Humanized社在籍時にこの機能を考案しました。
当時は「ユーザークリックの手間を省く、優れたユーザー体験(UX)」として開発されましたが、後にそれがSNSの中毒性を生む温床になったことを悔いています。
奪われた「脳の主導権」を取り戻す
開発者すら後悔するこの「依存システム」に、人類はどう抗えばいいのか?
ベストセラー『スマホ脳』の著者が教える、デジタル時代を生き抜くための具体的な「脳の処方箋」。
「自動スクロールがないのは不便だ」と私たちは感じます。
しかしその不便さは、開発能力の不足ではなく、私たちを画面の前に釘付けにし、正確なデータを搾り取り、広告を見せ続けるために設計された「高度な罠」になります。
我々は動画を楽しんでいるようでいて、実は巨大な実験室の中で、次に出る「当たり」を求めてレバーを引き続けるラット状態なのかもしれません。
⚠️ 警告:意志の力だけで抗わないでください
ここまで解説した通り、アプリは「脳のバグ」を利用してあなたを離さないよう設計されています。
この中毒性に根性論で勝つのは不可能です。唯一の対抗策は、「物理的にスマホを隔離すること」だけです。
どうしても指が止まらない時は、この箱にスマホを入れて時間をセットしてください。
強制的にドーパミンの供給を断つことでしか、奪われた時間は取り戻せません。






